『ロゼッタ』 |
ストーリーがドラマティックであるわけではなく、いや、むしろそのクライマックスは光熱費の支払いや就職という中にあるわけだが、作中の「ベルギーワッフル」という存在は、この作品の最大の象徴として深く観客の記憶にこびりついてしまうのだ。
ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌという兄弟監督のこの作品は、寡黙な凶暴さを携えて疾走している。行き着く先が生か死かわからぬ疾走である。
「働くこと」。いや、突き詰めれば「自分と母が食べていくため」だけで頭が満たされている少女、ロゼッタ。彼女に与えられた贅沢とは、ワッフルのための卵を割ることであり、小麦粉を運ぶことである。その姿には可憐さのかけらもない。
彼女が吐く息の白さと、森の中の湿った土が、ただやるせなく観客の身体をも侵す。
ベルギーの空は晴れることすら許されない。
この作品を僕は好きになれない。
しかし、このフィルムが孕む凶暴さに、観客として目をそらすこともできないのである。
そんな力が息づいているのである。
僕にとって、ワッフルはとても悲しいお菓子なのである。
紳士に関するコラムもとても面白いと思います。
ロゼッタは私の中でも強烈な作品で、誤ってビデオテープ(古いですが)を暖房器具の上に置いて溶かしてしまって以後ずっともう一度観たいと思い続けていた映画です。イゴールの約束も観られましたか?ダルデンヌ兄弟の作品はなんか心臓をえぐられるような後味を残されます。が、実はすごく色んな点で参考にしている監督です。と、どうでも良いことを勝手に書かせてもらいましたが、これからも覗きに来ます。
ダルデンヌ兄弟の作品は他にも観ていますが、『イゴールの約束』は未見です。正直なところ僕の真の好みとは言いがたく、時代を代表するほどの才能とも思いませんが、彼らが90分の作品を撮ろうとしていることは断じて正しいと思うし、そうあってほしいと願います。