『暗殺の森』 |
これが29歳の男によって、作られたものなのか。
まず最初の3分間で、圧倒される。
映画でしか表現することが出来ない空間が、最上の形で横たわっているのである。
この映画の、おそらくどのシーンを切り取ってスチール写真にしても、文句のつけようがない構図であろう。しかもその構図は、生々しく映画特有の動きで呼吸をしているのである。
向かってくる人に対して、キャメラが戦いを挑むように寄る。
去っていく対象には、逆に突き放すように引く。
抽象表現主義的な絵画を思わせる構図の上で、静寂を保ったまま人が動いている。
ムッソリーニ政権下のイタリア。
幼い日の忌まわしき記憶に呪われ、ファシズムに傾倒したジャン=ルイ・トランティニャン。
恩師の殺害の命を受け、物語は進行する。
雌の匂いを放ちながらフィルムに溶け込むステファン・サンドレッリと、硬質で冷ややかな麗しさでフィルムから遊離するドミニク・サンダの間で男は揺れる。
二人の女性のダンスシーンの至高の美。
森の中で繰り広げられる暗殺という名のオペラ。
異常なまでの高度な技術と、恐るべき感性が、些かも緩むことなく緊張を保っている。
ヴィットリオ・ストラーロのキャメラは、完璧に限りなく近づいた。
ベルナルド・ベルトリッチの才能は、このとき、無限の拡がりを見せた。
二人はこのとき、限りなく、死に接近していたのではないだろうか。
才能という、何より恐ろしい、暗殺の森のなかで。
コメントありがとうございました。
少々落ち込んでいたので、コメントいただけて元気が出ました。
ありがとうございます!
この2つのカットを見る限り、こう仰りたい気持ちがよくわかります。特に下のものは一瞬絵画ではないかと見紛うほどの美しさを備えているように感じます。
是非機会があれば観てみたいです。
息をのむほど美しいダンスシーンも画像にアップしたかったのですが、適切なものを選べませんでした。
映画に近づくほど、この作品のレベルの高さに打ちのめされてしまいます。