『ロング・グッドバイ』 |
ハワード・ホークスの『三つ数えろ』は「奇跡」としか表現しようのないシーンたちが見事な邂逅を果たしている「夢の映画」なので、フィリップ・マーロウの名前から引き合いに出すのは気が引ける。
ここでは『ロング・グッドバイ』というロバート・アルトマンの映画について触れる。
アルトマンの'90年代の復活は見事だった。'80年代はアメリカ映画界に見放され、室内劇の秀作である『ストリーマーズ』なども人々の目に触れることは少なかった。それだけ不遇の時代もあっただけに、復活については素直に喜びたい。
アメリカ映画を代表する作家の一人であることを確信し、その殆ど全ての作品に触れながらも、彼が「映画と離れた胡散臭さ」を感じさせることが、僕を彼の世界に入信することを躊躇わせている。彼へ向けられる賛辞の一つである「シニカル」という単語も僕には余計なのだ。
ところが、’73年に撮られた『ロング・グッドバイ』は実に生々しいハードボイルドであり、ここからは「映画」しか感じとることが出来ない。エリオット・グールドというお世辞にも二枚目とは呼べぬ、しょぼくれた男が、なんともかっこいいのである。
疲れた真夜中に愛猫のキャットフードを買出しにいくフィリップ・マーロウなど誰が想像しただろうか。マーロウがこんなに隙だらけの着こなしをしていいのだろうか。
この映画はラストシーンが素晴らしい。
取り澄ました余韻にこだわる探偵映画に慣らされた我々にとって、このフィルムの潔さは鮮烈である。
この時期のアルトマンは、いやになるほどかっこいい。
気付きませんでした。すぐに確認します。