『ホテル・シュバリエ』 |
映像のセンスもいいし、弛緩した空間の作り方も独特で、音楽の使い方もうまい。
敢えて言わない、語らない、でも、クスッと笑わせて愛おしさを感じる映画づくりは才能の証だろう。
91分でまとめた『ダージリン急行』は特によく出来ているな、と思った。
キンクスやストーンズをうまく使ってとぼけてみせるところに、失われつつあるロックの精神をも感じた。僕と同い年であることも手伝って「わかるわかる」とその作風に共感してみせたい気持ちになる。
でも、僕はどうもこの人の作品に没入できない。どこか醒めて観てしまうのだ。
ただひとつ、『ホテル・シュバリエ』という作品をのぞいて。
『ホテル・シュバリエ』は『ダージリン急行』のプロローグとして撮影された、わずか13分の短編だ。
登場人物も、ジェイソン・シュワルツマンとナタリー・ポートマンの二人だけ。
舞台はパリにあるホテルの一室。一本の電話で、男と女が再会の約束をして、その瞬間を迎える。
Peter Sarstedtの『Where do you go to』をジェイソン・シュワルツマンが女の登場に合わせるように準備する。ウェス・アンダーソンが(つまり僕も)生まれた年の曲だ。
この短編の映画の素晴らしさは明け方の映像の美しさに尽きる。
さまざまな想いや、肌が、密接に触れ合った濃密な夜のあとに訪れる夜明け。この瞬間を目撃できるだけでも、この短編にはかけがえのない価値があるのだ。