路地裏の天使たち |
ヴィム・ヴェンダースは、「ロード・ムービー」という言葉をこの国に定着させた男である。『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』でも示したように、路地裏の捉え方は健在だ。
ジョン・カサヴェテスは、『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』で、路地裏を舞台にしたアメリカの暗黒映画というものを、崇高なネオンのもとで見せつけてくれた。傑出した夜の物語である。
サミュエル・フラーの復讐譚『ストリート・オブ・ノーリターン』は、路地裏から洩れる光を余すことなく捉えた、不気味な力を持つ快作である。
このところ、暗黒映画の形式をとっていながら、夜の石畳を濡らす、という基本的な権利さえ行使しない映画が多い。おそらく意図のない権利放棄であり、作品自体の質も低い。これは何より憂うべきことではないか。
ドン・シーゲル、リチャード・フライシャー、ジャン・ピエール・メルヴィル、アキ・カウリスマキ、彼らもまた、路地裏の美しさを知り尽くした作家達である。
路地裏の天使、などという泥臭い言葉を捧げようものなら顔を背けられそうな面々ではあるが、彼らが路地裏に向ける視線は、限りなく美しい。
まだ観ぬ路地裏の傑作との出会いを、心から願う。