『夜へ急ぐ人』 Naomi Chiaki |
アルバム『あまぐも』に収録された、ちあきなおみの『夜へ急ぐ人』という'77年の作品だ。歌手としての類稀なる資質は言うに及ばず、混沌の詩、刹那的な曲構成、編曲の洒脱さ、グルーヴの強さを感じさせる日本歌謡界に咲いた棘のある花である。代表曲『喝采』は確かに凄まじいが、その記憶だけを残すことは不幸であるだけでなく、罪なのだ。
この国の歌謡界で”ディーバ”と呼ぶに値する歌手は、片手で数えるほどしかいない。ちあきなおみは、間違いなくその最初に指を折られるべき女性シンガーである。
彼女のパフォーマンスの凄みを体感するためには、同じ『夜へ急ぐ人』の紅白での鬼気迫る熱唱に触れていただきたい。狂気という名の青白い炎に包まれた霊魂そのものである。大晦日を凍りつかせた伝説の熱唱として人々に記憶されている。この曲をカバーしようなどという不遜な試みは、誰であれ許されない。
しかし、このように苛烈な歌唱だけではない。力を抜いた余裕の歌にこもる底力は、とても最近の”アーティスト”もどきが近寄れるレベルではないのだ。
たとえば、'88年の『イマージュ』という曲。これなど、同時期のSADEに通じるジャジーな雰囲気である。ジャズもシャンソンもファドも演歌も情感を込めて歌いこなす彼女こそ、本物の、プロの「歌手」と呼ぶにふさわしいのではないか。
芸能界から遠ざかって20年が経とうとしている。
いま、あらためて、ちあきなおみの凄みに触れて驚嘆する人が後をたたない。
どこかで、いまも、こっそりとその歌声を聴ける人がいるのだろうか。
しかし凄いですね、ちあきなおみ。
初めて視聴しましたが、圧倒されました。
イマージュは飛鳥涼との取り合わせが新鮮ですし、感性豊かな歌いっぷりはさすがの貫録です。
ちあきなおみの『夜へ急ぐ人』の凄みを感じて頂いた様でうれしいです。こんなに「歌」というものを上手に操って、しかも静かに、熱く感動させる人はなかなかいないでしょう。
ボーカル担当の末席の茶坊主として言わせて頂きますが、ビブラートを使わずに、ここまで圧倒させる歌手はなかなかいません。
『イマージュ』もいいですよね。僕にとっては、飛鳥涼の一番大きな仕事です。