『BTTB』 RYUICHI SAKAMOTO |
僕のテーマと同じく”Back To The Basic”の頭文字をアルバムタイトルにした坂本龍一の'99年の作品『BTTB』を聴く。
テレビCMの影響で”ウラ”盤の方が売れてしまったが、ほぼピアノソロだけで構成されたこのアルバムはとてもデリケートだ。さすが若い頃の僕の憧れの人だ。そもそも育ちの悪い僕などがドビュッシーを好んで聴くようになったのも、この人の影響からなのだ。(村上龍との往復書簡『友よまた逢おう』や対談集『存在の耐えがたきサルサ』は舐めるように読んだ。天童荒太との対談『少年とアフリカ』は綺麗ごとを並べる天童が相手だったので消化不良だったが。)
もう7年くらい前だろうか。正月のUターンラッシュ中に吹雪に遭い、高速道路の通行止めと凍結による事故の頻発で大渋滞に巻き込まれたことがある。わずか100キロあまりの距離を十数時間掛けてようやく福岡に帰り着いた。
深夜の雪の中、ファミレスの駐車場で仮眠を取りながら、このアルバム『BTTB』を聴いた。
積もった雪と夜の闇が周囲の音を吸収しているなかに、ピアノの音が舞い散る雪と呼応するように響き、思わず感動してしまって、なかなか寝付けなかった。今もそのときのことをよく思い出す。
このアルバムのメロディはいかにも彼らしく、不安定な魅力が際立っている。
”ウラ”の大ヒット曲『energy flow』は「癒し」の象徴として扱われることが多かったが、この『BTTB』の旋律は、静かな狂気のようなものをはらんだ脆さを、音楽に親しい誰もが、どの曲からも感じると思う。「癒し」とはむしろ対極にある美しさだと感じるはずだ。まるで氷上で習作に相対している様だ。
ヒットアルバムを取上げることはちょっと気恥ずかしいが、僕は坂本龍一の名盤のひとつだと思っているし、いまも冬場にはコンスタントに手に取る。
さて、冒頭に帰って今年のテーマである「Back To The Basic」だ。
ところで、原点回帰して何をするんだったっけ?
そもそも、僕の「原点」って何だったっけ?